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札幌地方裁判所 平成11年(行ウ)7号 判決 2000年7月10日

原告

右訴訟代理人弁護士

房川樹芳

被告

札幌南税務署長 中岡正史

右指定代理人

伊良原恵吾

藤田武治

島尻裕士

市川光雄

沖村幸夫

門馬公生

小森睦雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が平成九年一一月一二日付けで原告の平成七年分の所得税についてした更正処分及び重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、被告が、原告の平成七年分所得税の納税申告についてした増額更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。)の各処分が違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

二  前提事実(争いのない事実以外については証拠を併記)

1  原告は、昭和五五年五月二四日、A株式会社(以下「A」という。)から、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下「本件資産」といい、建物を特に「本件家屋」という。)を代金一二七〇万円で買い受け(乙二)、平成七年八月二一日、株式会社Bに対し、これを代金四〇〇〇万円で売った(後者の売買を、以下「本件売買」という。)。

2  原告は、平成八年三月一五日、本件家屋が租税特別措置法(以下「措置法」という。)三五条一項にいう居住の用に供する家屋にあたるとして、本件家屋とともにその敷地を売った本件売買について、同条の三五〇〇万円の特別控除の適用があることを前提として、平成七年分所得税確定申告書に、分離長期譲渡所得金額を〇円、納付すべき税額を〇円と記載し、札幌南税務署に提出した。

3  被告は、平成九年一一月一二日付けで、原告に対し、前項の確定申告について、本件資産は居住用財産にあたらず、本件売買は措置法三五条一項の適用を受けないとして、別表1のとおりの本件更正処分をした(甲一、弁論の全趣旨)。

あわせて、被告は、原告に対し、原告が長期譲渡所得税額の算定の基礎となる事実を仮装したとして、国税通則法六八条一項に基づき、別表1のとおりの本件賦課決定処分をした(甲一、弁論の全趣旨)。

三  争点

1  本件資産が居住用財産にあたるか否かについて(本件更正処分の適法性)

(一) 原告

本件売買は措置法三五条一項にいう居住用財産の譲渡にあたるのに、被告は、同項の特例(以下「本件特例」という。)の適用を認めず、本件更正処分をしたものであるから、本件更正処分は違法である。

被告は、原告の生活の本拠は本件家屋ではなく、千歳市幸町所在の店舗兼居宅(以下「幸町の家屋」という。)である旨主張するけれども、原告は、幸町の家屋内の店舗(原告の長女が経営する美容室)を手伝うため本件家屋と幸町の家屋の間を行き来していたのに過ぎず、原告が寝起きし、生活の本拠としていたのは、あくまで本件家屋である。

被告は、本件家屋の水道、電気等の使用量が少ないことから、原告の生活の本拠は本件家屋になかった旨主張するけれども、原告は、本件家屋で一人で居住しており、火気を使用するのは危険であるため、幸町の家屋又はその周辺で食事、洗濯、入浴等を済ませ、本件家屋の水道、電気をほとんど使用していなかったものであるから、右の事情は、原告の生活の本拠が本件家屋にないことの根拠とはならない。

(二) 被告

本件特例は、居住用財産を譲渡した場合には、代替の居住用財産を取得する蓋然性が高いことから、通常の居住用財産が取得できる金額の範囲で特別控除を認め、租税負担を軽減することによって、居住用財産の取得を容易にしようとする趣旨であると解されるが、措置法施行令二三条一項によれば、納税義務者が、居住用家屋を二つ以上有する場合は、主として居住の用に供していると認められる一つの家屋に限って本件特例の適用を認め、本件特例の適用範囲を制限し、制度の濫用を防いでいる。

これら関係規定の趣旨に照らすと、本件特例の適用を受ける居住用財産は、納税義務者が、真に居住の意思をもって、客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた財産をいい、これにあたるか否かは、納税義務者及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者等の日常生活の状況、家屋への入居目的、家屋の構造及び設備の状況その他の諸事情を、前記の制度の趣旨に沿って総合勘案し、社会通念に照らして客観的に判断すべきである。

そして、本件資産は、以下の事実に照らすと、居住用財産にあたらないから、本件売買は、本件特例の適用を受けず、したがって、本件更正処分は適法である。

(1) 原告は、昭和三七年、幸町の家屋を購入し、同年三月三〇日から幸町の家屋に住民票上の住所を定めていたところ、本件売買の直前である平成七年八月一一日、司法書士から教示を受け、同月一〇日付で本件家屋に転居したとして住民登録の届出をし、本件売買の契約書の日付を、実際より一か月遅い同年九月二一日と改ざんし、これらを確定申告書に添付して提出している。右は、専ら措置法三五条一項の適用を受けることを目的として行った一種の偽装工作であり、本件資産が居住用財産にあたらないことを裏付けている。

(2) 原告は、取引金融機関に対し、幸町の家屋の所在地を自己の住所として届け出ており、原告の長女は、平成四年分ないし平成八年分の所得税の確定申告書に、家賃の支払先である原告の住所地として幸町の家屋の所在地を記載し、提出しているほか、幸町の家屋に住民登録をしていた原告の三男は、平成四年分ないし平成六年分の所得税の確定申告書等に、原告を同居の老人扶養親族として記載していることからして、原告本人も、原告の家族も、幸町の家屋こそ、原告の生活の本拠であると認識していたものである。

(3) 本件家屋の水道、電気及び電話は、盆暮れ等に原告の長男家族が帰省した際に本件家屋を使用したことによると考えられる月以外の月は、ほとんど使用されておらず、近隣住民の申述によっても本件家屋が原告の生活の本拠であるとは窺われない一方、幸町の家屋の近隣住民の申述からは、原告が右家屋を生活の本拠としていることが窺われる。

2  原告の事実の隠ぺい又は仮装があったか否かについて(本件賦課決定処分の適法性)

(一) 原告

仮に、本件売買が本件特例の適用を受けず、原告の平成七年分所得税の申告が過少申告であったとしても、原告には、課税標準等、税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装したことはないから、国税通則法六八条一項の賦課要件があると認めてなされた本件賦課決定処分は違法である。

被告は、原告が、本件売買の直前に本件家屋の所在地に住民票上の住所を移転し、契約日付を改ざんした本件売買契約書とともに確定申告書に添付し、提出したことが、税額の計算の基礎となる事実を仮装したものと主張するけれども、原告は、司法書士から、本件資産が居住用財産にあたるので、住民票を移した方がよいなどと指導され、自らも本件家屋が居住用財産であると認識し、現実に本件家屋に居住していたこともあって、右指導に従ったのに過ぎない。事実の仮装とは、故意に事実を歪曲することと解されるところ、原告にはそのような意思はなかったものである。

(二) 被告

前記1(二)(1)とに述べた原告の行為は、本件家屋に生活の本拠としての実態がないのに、これを認識しながら、本件家屋の所在地への虚偽の転入手続をとって住民票の交付を受けるとともに、本件売買にかかる売買契約書の契約日付を一か月後に改ざんした上、これらの書類を確定申告書に添付し、提出したものである。

国税通則法六八条一項にいう事実の仮装とは、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけ、課税要件事実の確認を妨げるおそれのある行為をいうものと解すべきであるが、前記の行為は、本件家屋所在地への住民登録により、本件家屋を生活の本拠としていたかのような外形を作り出し、売買契約書の契約日付を改ざんすることによって右外形が少しでも長く継続したかのように見せかけるものであって、課税要件事実の存否の確認を妨げるおそれのある行為というべきであるから、事実の仮装行為にあたる。

また、同条の重加算税を賦課するためには、納税者において、故意に課税標準又は税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その結果として、過少申告の結果が発生したことが必要であるのに過ぎず、ここでいう故意は、隠ぺい又は仮装に該当する事実の認識で足りると解すべきであるが、原告は、前記のとおり本件家屋に生活の本拠としての実態がないことを認識しながら、自ら本件家屋所在地への転入手続を行い、司法書士を介し、本件売買契約書の契約日付を、真実と異なる日付にあえて書きかえたものであるから、右にいう故意に欠けるところはない。

以上のとおり、原告に国税通則法六八条一項の賦課事由があるのは明らかである。

3  本件各処分の理由付記の要否について

(一) 原告

本件各処分には、処分理由が付記されておらず、原告の不服申立ての対象が不明であるから、この点からも本件各処分は違法である。

(二) 被告

国税通則法二八条一項、二項によれば、更正は同条二項所定の事項を記載した通知書を送達して行うものとされているところ、右の記載事項には、処分の理由は含まれておらず、また、原告は、所得税法一四三条所定の青色申告書を提出するものではないから、所得税法一五五条二項の理由付記の規定は本件更正処分には適用がない。したがって、本件更正処分の通知書に処分理由を付記しないからといって、処分が違法となるものではない。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

前記前提事実に甲一ないし一〇、乙一ないし二三(乙六、七、九ないし一八は枝番を含む)、原告本人及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和三七年、幸町の家屋及びその敷地を買い、幸町の家屋に居住し、同所で美容室を経営していた。

2  本件資産は、もと原告の夫の甥の所有物であり、天理教の教会として使用されていたが、競売により、Aがその所有権を取得した。原告の夫の甥には、本件資産を買い戻す資力がなかったことから、原告は、本件資産購入についての引合いを受け、昭和五五年五月二四日、Aから、本件資産を代金一二七〇万円で買い受けた上、これを原告の夫の甥に引き続き使用させていた。原告は、同年六月七日に本件資産につき所有権移転登記を経ていたが、登記簿上の住所は幸町の家屋のある幸町とされ、これは本件売買による所有権移転登記まで変わることがなかった。

昭和五八年ころ、原告の夫の甥に代わり、原告の長男である乙の家族が本件家屋に入居し、本件家屋のある住吉に住民登録をしたが、昭和六〇年から昭和六一年ころ、埼玉県内に転居した。しかし、住民登録はそのままとされ、本件家屋には依然、乙の表札が掲げられ、乙家族の家財道具も本件家屋に置かれたままであり、乙の家族は、毎年正月及び盆に千歳市に帰省し、その間、本件家屋で過ごしていた。

3  原告の父である丙は、もと富良野市に在住していたが、眼病を患ったため、昭和六〇年ないし昭和六一年ころから、幸町の家屋に転居し、原告は、幸町の家屋で丙と同居し、丙の身の回りの世話等をするようになった。

丙は、平成元年一〇月、養護施設に入所したため、原告は、幸町の家屋で丙の世話をする必要がなくなり、乙の家族が転居して無人となった本件家屋の管理のため、本件家屋に泊まることがあったが、本件家屋に転居するということはなかった。

原告は、このころまでには、美容室の経営を原告の長女、次女に任せていたが、日中は、美容室のある幸町の家屋で、美容室を手伝っていた。

原告は、本件家屋で食事、入浴及び洗濯をすることはなく、いずれも、専ら幸町の家屋及びその周辺で済ませていた。

また、原告は、昭和三七年三月三〇日以降、平成七年八月九日までの間、幸町の家屋の所在地に住民登録をしており、遅くとも丙が死亡した平成三年ころからは、幸町の町内会に加入し、町内会の総会にも出席していた。原告は、平成七年当時、取引金融機関に対し、自己の住所として、幸町の家屋の所在地を届け出ていた。

4  原告の長女の丁は、平成四年分ないし平成八年分の所得税の確定申告書中において、地代家賃の内訳欄に「幸町」に住所を有する原告に対し年間六〇万円の賃料を支払っている旨記載し、また、三男の戊は、平成四年分ないし平成六年分の所得税の確定申告書において、住民票上幸町の家屋に原告と同居していることを前提として、扶養控除欄に原告がいる旨の記載をした。

5  本件家屋の水道使用量は、平成五年一月から本件売買がなされた平成七年八月までの三二か月間についてみると、別表4のとおりである。

同期間における本件家屋の使用電気量は、同表のとおりであり、一般家庭の平均的な使用量である二三〇キロワット(平成七年当時)を著しく下回っていた。なお、原告は、本件家屋ではガスは一切使用していなかった。

また、本件家屋の平成六年四月から平成七年一〇月までの電話料金は、別表5のとおりであり、各月の電話料金額から、月々の基本料金及びプッシュ回線使用料を控除すると、平成六年四月、同年七月、同年一〇月、同年一二月、平成七年一月、同年四月、同年五月及び同年八月には、全く電話が使用されていないことになる。

6  原告は、平成七年、本件資産の近隣に建設されたC店舗の拡張用地として、本件資産の売却方を懇請されたため、乙らの了承を得た上、同年八月二一日、本件売買契約を締結した。

原告は、本件売買に先立ち、己司法書士から、本件譲渡による通常の所得税率について説明を受けた上、居住用財産の譲渡所得については特別控除の適用があるが、詳しいことは税理士に相談した方がよい、居住用財産であれば、本件特例の適用を受けるために、本件資産の所在地に住民登録を移しておいた方がよいなどとアドバイスを受け、平成七年八月一一日付けで、自ら本件資産の所在地への住民登録の手続を行った。

7  己司法書士は、平成七年分確定申告期限の三日前である平成八年三月一二日ころ、本件特例の適用についての相談のため、庚税理士に原告を紹介し、原告を同税理士の事務所に行かせた。

同事務所の担当者は、原告に確定申告書の添付書類となる住民票及び本件売買契約書を持参させ、本件家屋での居住実態について原告から聴取するなどして、本件売買が本件特例の適用を受けるかどうか検討したところ、右住民票の転入日付と本件売買契約書の契約日付とが近接していることが問題となった。結局、原告の平成七年分所得税の申告書においては、右担当者又は原告の発案により、添付書類である売買契約書の契約日付が、平成七年八月二一日から同年九月二一日に改変された上、提出された。

二  争点1について

以上の認定事実を総合すると、原告は、原告の夫の甥の使用のため本件資産を買い受け、その後、原告の長男家族が入居してからは、専ら長男家族の住居として使用させていたものであり、長男家族が転居した後は、長男家族が盆暮れに帰省することを考え、家屋の管理のため本件家屋に行くこともあったが、幸町の家屋に住民登録をし、幸町の町内会に加入・参加し、食事、洗濯、入浴等は専ら幸町の家屋及びその周辺で済ませており、本件家屋では電気、水道はほとんど使用せず、原告に身近な長女や三男も、原告は幸町の家屋を住所とするという認識を有していたのであるから、原告の生活の本拠は本件家屋ではなく、幸町の家屋であると認めることができる。

この点に関し、原告本人は、おおむね、「本件家屋は、自分が長男家族と住むために買った。丙の世話のため幸町の家屋に住んでいたが、丙が養護施設に入所した平成元年一〇月からは、本件家屋に転居したわけではないが、家屋の管理のため、幸町の家屋との間を行き来して寝泊まりしていた。自分の家財道具も、長男家族の家財道具も、本件家屋に置いていた。食事、入浴等は、長女又は次女の自宅で済ませていた。本件家屋の電気、水道の使用量が少ないのは、本件家屋には夜、寝に帰るだけであり、電気や水道を極力使用しないようにしていたからである。本件家屋には、平成七年九月まで住んでいた。」などと供述している。

しかしながら、右供述は、本件家屋に寝泊まりするようになった契機や時期について、原告本人及び丁の供述録取部分又は供述記載(甲六、七、九、一〇)とも食い違い、明確でない上、原告が本件家屋に住んでいたと供述する時期の電気及び水道の使用量が著しく少ないのに対し、その間の生活実態についての説明はあいまいであり、不自然な点も少なくないことに照らすと、とうてい依拠し得るものでなく、採用することができない。なお、原告が本件家屋に居住していた旨の辛の供述記載(甲四)があるけれども、右記載は、原告がその家族と同居していたことを内容とするものであり、いつの時点の状況を述べたものかも不明であることに照らすと、原告本人の供述を裏付けるものとはいえず、直ちに採用することはできない。

本件資産が、措置法三五条一項にいう原告の居住用の財産であるというためには、原告が、真に居住の意思をもって、客観的にもある程度継続的に生活の本拠としていることを要すると解すべきであるところ、以上によれば、原告は、本件家屋を生活の本拠としていなかったことが明らかであって、本件資産の譲渡は、本件特例の適用を受けないというべきであるから、原告の平成七年所得税の分離長期譲渡所得については過少申告の事実が認められ、更正の理由がある。

更正後の原告の分離長期譲渡所得額は、本件譲渡にかかる譲渡収入額四〇〇〇万円(当事者間に争いがない。)から、被告の主張する取得費一一八〇万九七四六円及び措置法三一条による特別控除額一〇〇万円を控除した二七一九万〇二五四円の範囲で、当事者間に争いがない。そして、被告の主張する取得費は、本件資産の一括取得代金一二七〇万円を本件家屋と敷地の平成七年分の固定資産税評価額に従って按分する方法により本件家屋部分の価額を算出した上で、これに対する本件家屋の取得時から譲渡時までの減価償却費相当額を算出し、これを取得代金一二七〇万円から控除した金額(別表2及び3参照)であるが、右計算方法は相当であるから、原告の分離長期譲渡所得額は、前記のとおり二七一九万〇二五四円というべきである。

そうすると、更正後の原告の所得税額は、右の分離長期譲渡所得額から、(1)所得税法七四条の社会保険料控除三〇万四一〇〇円(当事者間に争いがない。)及び同法八六条の基礎控除三八万円を控除した上、(2)国税通則法一一八条一項に従って千円未満を切り捨て、(3)これに対し措置法三一条一項一号(平成八年法第一九号による改正前のもの)により税率二五パーセントを乗じて分離長期譲渡所得税額を算出し、(4)これから平成七年分につき実施された定率減税の上限額五万円を控除した六五七万六五〇〇円となる。

したがって、右と同旨の本件更正処分は、適法である。

三  争点2(本件賦課決定処分の適法性について)

1  前記認定事実によれば、原告は、本件売買に際し、これによる所得課税がどのようになるのかについて関心を持ち、本件家屋を生活の本拠といえるような生活実態がないのに、本件売買に先立ち、司法書士から、本件家屋が居住用財産であるなら、特別控除の適用を受けるために住民票を本件家屋所在地に移した方がよいなどと説明を受けたため、自ら本件売買の直前に、本件家屋の所在地に住民登録をしたのち、平成七年分の確定申告の直前、同年分の所得税申告、とくに本件売買が本件特例の適用を受けるか否かの点について、税務事務所で相談したところ、住民票の転入日付と本件売買の契約日付とが近接していることが問題になったため、担当者から教示を受け、又は自ら発案して、本件売買契約書の契約日を一か月後に書きかえ、このような内容虚偽の契約書を、前記住民票とともに申告書に添付して提出したものと認められる。

以上の事実によれば、原告は、本件家屋を継続して生活の本拠としているかのように、すなわち、本件資産が居住用財産にあたるかのように見せかけるため、その旨の、事実と異なる書類を作出し、これを確定申告書に添付したものであるから、税額の計算の基礎となる事実の一部を仮装し、これに基づいて申告書を提出したものというべきである。

2  原告本人は、住民票上の住所を移したことについては、己司法書士から、本件資産を売るのであれば、住民票の住所を移さないと駄目だと言われただけであり、本件特例と関係があることとは思わなかった旨述べ、また、本件契約書の日付の改ざんについては、税務事務所の担当者にアドバイスされ、己司法書士に依頼して行ったものであるが、何のために契約書の日付を書きかえたのかわからなかった旨供述し、事実の仮装についての故意を否定する。

しかし、まず、住民票上の住所の移転についてみると、原告は、本件売買に先立ち、己司法書士から、本件特例の説明を受けたこと自体は自認しており、本件特例と関連して原告に住民票上の住所の移転をアドバイスした旨の己司法書士の供述録取部分(乙二〇)との対比からしても、原告本人の右供述は採用することができない。

また、契約日付の書きかえについてみると、前記のとおり、己司法書士は、本件特例の適用が受けられるか否かの詳細について税理士に相談した方がよいとして、原告を庚税理士に紹介し、同税理士の事務所においても、主として本件資産が居住用財産にあたるか否かが検討されたものと認められるところ、原告本人も、右の相談の際に契約日付を書きかえることが決まった旨認めているうえ、住民票の転入日付と契約日付とが近接していることに気づいて、税務事務所の担当者に指摘した旨の庚税理士の供述録取部分(乙二三)もあることなどに照らすと、右契約日付の書きかえは、住民票上の転入日から売買契約までの期間が問題になったため、これをできるだけ長く見せかけ、本件特例の適用を受けようとしたものであると推認するのが合理的である。そして、原告は、己司法書士から指示を受け、自ら税務相談に訪れ、担当者の右調査等に対応しているのであるから、以上の事情を認識していたものと認められ、これに反する原告本人の供述は、採用することができない。

なお、乙二三中の壬の供述録取部分は、同人が原告に対し、契約書の日付を直すよう教示したことは絶対にないというものであり、また、乙二〇中の己司法書士の供述録取部分は、契約書の日付を書き直した記憶はないというものであり、契約日付の書きかえを誰が発案し、誰が行ったかについて、原告本人の供述とは食い違うものとなっているけれども、いずれにせよ、原告が本件売買契約の契約日付を事実に反する日付に書きかえることと、これが本件特例の適用を受けるためであると認識していたものと認められることは前記のとおりであるから、右食い違いは、前記認定を左右するものではない。

3  そうすると、原告の申告書の提出については、国税通則法六八条一項にあたる事由が認められ、被告は、前記のとおり適法な本件更正処分による更正後の税額額を前提として、これに重過少申告加算税率三五パーセントを乗じ、重加算税を算定して賦課したものであるから、本件賦課処分は、適法というべきである。

四  争点3

原告は、本件各処分は、処分理由の付記を欠くので、いずれも違法である旨主張する。しかし、国税に関する法律に基づき行われる処分(酒税法第二章の規定に基づくものを除く。)については、行政手続法第三章(不利益処分)の規定に適用は排除されている上(国税通則法七四条の二第一項)、本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠となる同法上、処分に当たって処分理由の付記を義務づける規定はない(また、弁論の全趣旨によれば、原告は、所得税法一四三条所定の青色申告書を提出する者ではないから、同法一五五条二項の理由付記の規定は適用されない。)から、被告が、右各処分において、その理由を付記しなかったことをもって、右各処分が違法となるものと解することはできない。

第四結論

以上の次第で、本件各処分の取消しを求める原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂井満 裁判官 龍見昇 裁判官 土屋毅)

物件目録

一 所在 千歳市住吉

地番

地目 宅地

地積 三三七・九二平方メートル

二 所在 千歳市住吉

家屋番号

種類 居宅

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階及び二階 一〇〇・四四平方メートル

別表1

課税の経緯

<省略>

別表2

分離長期譲渡所得金額の計算書

<省略>

別表3

譲渡資産の取得費の計算書

<省略>

別表4

電気及び水道の使用状況

<省略>

<省略>

<省略>

別表5

電話の利用状況

<省略>

<省略>

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